鋸山

鋸山はロープウェイで登る観光地で、登山対象にはならないとの先入観が定着していたせいか、TTC創立以来25年間、一度もクラブ主催山行の対象に選ばれたことがない空白の山域だった。
しかし、鋸山は低山ながら、南面に千葉県最古の古刹日本寺を有する霊山であり、北面には房州石(凝灰岩)を切り出した断崖絶壁の石切場跡の産業遺構が多く残り、しかも山上からは360度の大展望が楽しめる名山である。しかも岩峰を東西に連ねた稜線を縦走する首都圏人気のハイキングコ-スもあるようだ。
今回選んだコ-スは、切り出した房州石の運搬道「車力道」から石切場跡群を巡って、頂上稜線の人気スポット「地獄ノゾキ」に登って、大展望を楽しんでから、数千躰の石仏群を参拝しながら、日本一大きい石の大仏様が祀られている日本寺境内に下山する、見所満載のコースとした。

計画書

実施報告

鋸山頂上稜線からは360度の大展望が広がる。東京湾の海原の先に丹沢山塊や富士山、伊豆大島も。

12/15早朝、17名のメンバがマイクロバスに乗車して厚木市を出発。アクアラインから千葉県に入り、JR浜金谷駅前で下車。一般道1.5kmを、25分を要して歩いて、車力道登山口に到着。

樹林帯の中に続く車力道は、鋸山北面の石切場から切り出した、房州石の運搬道として、江戸時代から昭和60年頃まで使用されてきた遺構だという。轍の跡が残る房州石の敷石に導かれて、車力道を登ってゆくと、切り出した石のブロックを、滑らせて運搬したという、樋道跡も残り、往時がしのばれる。当時、ねこ車と呼ばれる木製の荷車に、重量80kgの長方形の房州石ブロックを3個積み(240kg)、この車力道を運び下ろしたという。その運搬は女性が担い、運び下ろした後、ねこ車を背負って登り、一日3往復したという。危険で大変な重労働だったのだろうな~と、往時の偉大な女性パワ-をしのびながら、石の集積場所跡のある、鋸山縦走路分岐点まで40分を要して登った。

コ-スを右に採り、巨岩の切り通しを進むと、観音洞窟と名づけられた石切場跡に続いて、高さ70~80mもあろうかという垂直断崖に囲まれた石舞台の名称の石切場跡に立ち、驚嘆の歓声が挙がる。石切場の底部は、広大な広場で、かつては、この石舞台の上でコンサ-トが開催されたという。垂直の壁には、「安全第一」の文字が刻まれ、散在する錆付いたウインチや削岩機、リフトやワイヤ等の残骸が往時をしのばせる。

垂直断崖から鳥の頭部のように突き出た、鋸山最大のパワ-スポット「地獄ノゾキ」を見上げながら、東に進むと、「ラピュタの壁」と名づけられたスケ-ルの大きな垂直断崖が現れ、眼下にカ-フェリ-の金谷港と東京湾の海原の先に、観音崎から久里浜の海岸、丹沢の山並みの左上には一際高く大きく聳える、雪を戴いた富士山の大展望にしばし見入った。

ジュピタの壁の左側の断崖に刻まれた凝灰岩の風化した石段を百数十段登ると、日本寺境内となる北口料金所のある稜線に到着する。岩壁に刻まれた百尺観音像に参拝し、更に数百段の石段を登って、鋸山の名所「地獄ノゾキ」(標高285m)のある展望台に到着。360度の大展望を堪能しながら少し遅めの昼食を楽しんだ。

TTCメンバ全員が、「地獄ノゾキ」の上に立った時に、大勢の団体客とかち合い、オーバーハングした岩の上に、一度に30人が立つ超過密状態になり、重みで岩が崩れて落ちないかと、ヒヤヒヤものだった。下から見上げた「地獄ノゾキ」の凝灰岩のオーバ-ハングは、出っ張り長約10m、出っ張りの付け根の厚さ約15mと目測したが、意外と脆い凝灰岩、長い年月を経て風化が進めば、人間約30人/約2トンの重量に十分に耐えられるのか?やはり心配だ。

南に目を移すと、安房崎から洲崎に続く、内房の長い海岸線の先に伊豆大島が浮かび、緑の山並みの中に、里見八犬伝ゆかりの富山と千葉のマッタ-ホルン伊予ヶ岳が同定できた。

大展望を存分に堪能したのち、南斜面につけられた日本寺への下山口から境内に入り、千五百羅漢道の参道を辿り、岩壁に祀られた多数の羅漢、観音、地蔵等の石仏群に手を合わせながら、大仏のある広場に降り立った。大半の石仏は、上総の名工大野甚五郎と門弟27名によって、1779年から21年間にわたって、伊豆石に1553体の石仏を刻んで、安置したものだそうで、世界第一の羅漢道場として、海外にも広く知られているという。

また、紅葉に彩られた岩壁の前に鎮座する石造の高さ31mの薬師瑠璃光菩薩座像の大仏は、奈良東大寺の廬舎那仏座像の大仏よりも大きく、日本最大の大仏だという。

約4時間余の鋸山登山を終え、マイクロバスの待つ、日本寺駐車場から、次の目的地「をくづれ水仙郷」に向かった。往路の交通渋滞で、目的地到着が遅れたことから、佐久間ダム湖畔にある、5分咲きのニホンズイセンの大群落地の中を25分ほど散策しただけで切り上げ、もう一つの訪問先「道の駅保田小学校」に立ち寄って、本日予定の日程を無事完了した。

木更津から袖ケ浦、アクアライン橋上を走る車窓から、茜色に染まる夕焼け空に富士山のシルエットを眺めながら、今日一日、天候に恵まれ、素晴らしい鋸山ハイキングを堪能できたことに感謝しつつ、帰路についた。

山行写真